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【あいうえおぶせ】 す号 スラックライン

すらっくらいん【スラックライン】
小布施町・雁田

浄光寺の34代目 副住職を務める林映寿さん

この満面の笑顔のお坊さん、ただ合掌をしているわけではありません。なんと、地上1mほどに張られた幅約5cmのライン上を歩いているのです!
 と説明するまでもなく、小布施町民なら誰もが知っているであろう「スラックライン」。伸縮性と反発性のあるラインの上でバランスを取りながら、歩いたり跳ねたりする新感覚のスポーツです。体幹や集中力などが鍛えられ、アスリートのトレーニングとしても導入されているほか、低い位置に設置すれば小さな子どもも遊べます。

トランポリンと綱渡りのハイブリッド。
スラックラインの“聖地”は浄光寺からはじまった!

1408年に建立され、国指定重要文化財の薬師堂がある浄光寺。

 そのスラックラインの"聖地"として全国に知られる小布施町。立役者が、歴史ある浄光寺の34代目であり、現在、副住職を務める林映寿さんです。仏教系大学を卒業後、すぐに家業である浄光寺の僧侶として働きはじめた映寿さん。スラックラインをはじめたきっかけは「寺の存在価値を高めたい」という思いでした。

 「全国に5万軒あるとされるコンビニには毎日のように人が行くのに、7万7000寺あるお寺に行くのは年に一回程度。そんなお寺が明日閉門しても困らないけど、浄光寺だけは閉まったら困る。そんな存在になるためには、若い人も来たくなるきっかけをつくりたいと思ったのです」
 そう考えていた2013年、仲間と出かけた先で見かけた一本のヒモ。なんだか乗れるようだぞ? と挑戦したのが、スラックラインでした。

 「最初は全然できなくて悔しくて。でも練習していくと、歩けるだけで周囲からチヤホヤされる。この、できないことへの挑戦とできたときの喜びを子どもたちに伝えたい。さらには、社会問題化している子どもの体力低下も解消できるのではないか」
 そんな発想が、"聖地"のはじまりでした。

学校教育への導入からワールドカップも開催

 まずは寺庭にスラックラインパークを造成。当時5歳だった長男の映心くんも取り組むようになり、「体幹を鍛えるなら幼少期から」と考え、町内の保育園に取り入れてほしいと町長に直訴しました。すぐに理解が得られ、なんと翌日には園庭にラインを張ったそう。さらに、小布施中学校の先生から、部活動や授業にも取り入れたいと相談を受け、中学校にも導入されました。

高難易度のあぐらを披露してくれる映心くん

 「個人レベルで頑張れるスラックラインは、運動が得意ではない人も挑戦できるのも魅力なんです」
 映寿さんがこう話す通り、夢中になった生徒たちが浄光寺を訪れるようになり、遊びながら切磋琢磨して練習するように。彼らが上達してくると「もっと上手な選手の姿を見せたい」と思うようになり、「どうせなら日本中の一流選手を小布施に集めよう」と考えて開催したのが、2014年の日本オープン選手権大会でした。選手育成も強化し、小布施から16人が出場。町内から多くの観客が訪れ、小布施のスラックラインの知名度は着々と向上していきました。そして2016年、とうとう木下晴稀選手が、新星のごとくアメリカ開催の「X-GAMES」で優勝を果たしたのです!

 これにより、世界を意識しはじめた映寿さん。翌年にはアジア初となる「スラックラインワールドカップ(W杯)ジャパン・フルコンボ」を開催し、3万人の観客を動員しました。

 「エージェントや代理店を頼らず、自分たちの力だけで、わずか10カ月の準備期間で開催を実現させました。前例がないことに挑戦する背中を子どもたちに見せたいと思ったんです」
 その大盛況を受け、2019年には日本で2回目となるW杯を開催。木下選手が見事、地元優勝を果たし、映心くんも最年少でベスト8に入賞して、"スーパー小学生"の名を世界に轟かせました。

お寺には戦歴の表彰状も。

復興支援も、スラックラインがあったから

 ところが、W杯が大成功に終わった一カ月後、長野県を「令和元年台風第19号」が襲いました。会場だった小布施総合公園は浸水し、協賛してくれた地域の方々も壊滅的な被害を受けたのです。

 「今度は協力してくれた皆さんに恩返しをする番だ」と立ち上がった映寿さんは、復興支援を開始。その過程で多くの教訓を得たことで、災害に強い地域づくりを考え、現在は防災と農業を掛け合わせたライフアミューズメントパーク「nuovo(ノーボ)」の活動にも取り組んでいます。

 「スラックラインがなかったら、復興支援もありませんでした。W杯ができたのだから、防災のイノベーションも起こせない理由はないと思っています」
 だからこそ、原点であるスラックラインは、今後のさらなる継続と発展のためにも後進の育成に取り組んでいきたいと映寿さん。

 「日本をマイナースポーツでも食べていける国にしたい。楽しみながら、選手でも指導者でも生きていける仕組みづくりをしていきたいですね」
 "前例がない"ことにワクワクする映寿さんのスラックラインの挑戦は、まだまだ続いていきます。

浄光寺境内に広がるスラックラインパーク。誰でも無料で利用できる国内最大級の施設。

小布施辞典「あいうえおぶせ」
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※掲載内容は刊行当時のものです。情報が最新ではない場合がありますのでご了承ください。
※noteでの掲載のため、一部内容を編集しています。

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