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人々の健やかな生活を願って受け継がれてきた味を守るために。「オブセ牛乳」の魅力を、より多くの人に届けたい

 天使と三日月のレトロなロゴが目印のオブセ牛乳。コクと甘さがありながらも、さらっとした飲み心地は、創業当時から変わらず地元の人に愛され続けています。

しかし、おいしさと安全にこだわる反面、消費期限が短いため流通がほぼ長野県内に限られるという課題があります。牛乳の消費量が全国的に減少する中で、地元の人に愛される味を守り続けるため、オブセ牛乳は新たな道を探っています。

 現社長である西岡幸宏さんは、もともと岐阜県で長年公務員として勤めていたところから、パートナーである由佳さんの実家の家業を継ぐために小布施に移住してきました。2018年からオブセ牛乳オリジナルグッズの開発やECサイトの開設を始め、遠くに住む人にも「町の牛乳屋さん」の魅力を味わってもらうための方法を模索している西岡幸宏さんに、牛乳工場のリアルな課題と、これからのオブセ牛乳が目指す姿を伺いました。


おいしさの秘密は、成分はそのままに濃い味わいを引き出せる80度15分間の殺菌方法

オブセ牛乳は、戦後まもなく、日本が高度成長期に入る頃に小布施町で創業しました。当時は、まだ現代のように多種多様な食品が無い時代でした。創業者の奥さんである河合登美子さんは、栄養価の高い牛乳が普及し、小さな子供達が健やかに成長するようにと願いを込めて、「赤ちゃん天使」のロゴを考案したと言われています。

創業時からオブセ牛乳が愛され続ける理由は、なによりそのおいしさにあります。牛乳は、酪農家から届いた生乳を、加熱殺菌して作られます。オブセ牛乳のおいしさの秘密は、創業者が試行錯誤の末にたどり着いたという、80℃15分間の加熱方法にあります。

西岡さん 牛乳屋の朝は早いです。私と家内は、朝四時半に出社し、工場のボイラーのスイッチを入れます。次に五時になると従業員の1人が工場に来て牛乳製造の準備を始めます、まずは約4℃で貯蔵してある生乳をクラリファイヤーという機械で細かいゴミを取り除き、きれいな状態にします。

その後、一度生乳を65度まで加熱し、ホモゲナイザーという機械にかけて脂肪分を細かくしていきます。生乳は、そのまま置いておくと水分とクリームで分離してしまうのだそう。牛乳を均質化することで、さらっとした飲み口の牛乳になるのです。

西岡さん 次に加熱殺菌を行なっていきます。弊社では、牛乳の殺菌に「殺菌パス」というタンクを使います。ホモゲナイザーで均質化した牛乳を殺菌パスに入れた後、温度を80度まであげて15分間加熱します。毎日、4台の殺菌パスを使って殺菌しています。うちの牛乳は、お客様からよく『味が濃い』と言っていただくんですが、決して成分的に濃いわけではなく、殺菌方法によって引き出される味わいなんです。

「牛乳屋さん」から日本の産業の縮図が見える?小さい会社にも小さい会社なりの役割がある

大手メーカーの場合、殺菌にかかる秒数が少ないため大量生産が可能ですが、オブセ牛乳は15分間かけて殺菌をしていくため、手間ひまがかかり生産はどうしても少量になります。西岡さんは、「牛乳屋をしていると、日本の産業の縮図が見える」と語ります。

西岡さん 例えば、牛乳ビンの口にナイロンのフィルムをつける機械はもう製造中止されているんです。他にも、うちにはもう閉業してしまったメーカーの機械がいくつもあります。
そうなると、修理すること、機械の部品を入手するのがかなり難しくなります。

こまめに手入れや整備をして大事に使ってはいますが、壊れてしまった場合は今後どう切り替えるか考えないといけない。ビン牛乳を製造する会社も全国的に減少している中、弊社がビン牛乳の製造を永く続けたいといくら思っても、製造する機械が無くなってしまえば作ることができなくなります。

今、日本ではいろんな小さい会社がどんどんなくなっていってしまっています。世の中、大きい企業だけがあればいいかというと決してそうではない。中小企業でも、小さいなりに役割があるので、うちもなんとか続けていきたいと思っています。

オブセ牛乳の主力商品である牛乳。各社牛乳は原材料が高騰する一方で販売価格がそれに見合うだけの価格までなかなか上がらず、さらに消費量の低下によって年々利益が出づらくなっています。オブセ牛乳は、地元の人に長く愛される一方で、現実として、このまま牛乳製造一本で商売を続けていくのは極めて厳しい状況であると、事業継承後に明らかになったとのことです。それを打破するために、西岡さんは新たな展開の仕方を模索しているのです。

「オブセ牛乳を継げるのは自分しかいない!」使命感を感じ、公務員から町の牛乳屋さんへ

オブセ牛乳の三代目である西岡さんがオブセ牛乳を継いだのは七年前。当時西岡さんは岐阜県職員として働いていました。オブセ牛乳は、西岡さんのパートナーである由佳さんの実家の家業だったのです。

西岡さん ちょうど岐阜で家を建てて、もうすぐ管理職になるというタイミングでした。義父が、『後継ぎがいないから、もう廃業にする』なんて言うものですからそれはあまりにもったいないなと。公務員になりたい人間はたくさんいるけれど、オブセ牛乳を継げるのは自分しかいない!と使命感を感じたんです。前社長からは、『牛乳さえ作っていれば大丈夫だ』と言われ、それを信じて小布施に来たんですが、いざ蓋を開けてみたらまぁ大変でした(笑)

「作れば売れる」時代だった先代の頃と比べ、厳しい現状を目の当たりにした西岡さんは、「ただ先代と同じやり方を続けていてはまずい」と、危機感を抱きます。

西岡さん 何から手を付ければよいのか考えていた最中に、工場内の老朽化した設備やトラックが立て続けて故障し、まずは修繕で手一杯な状況となりました。それでも傾きかけていた経営を立て直すべく、短期・中期・長期の策を練っている最中ですね。現状維持を続けていくだけでは、いずれ限界が来ます。牛乳の製造販売以外で、利益の出る仕組みを新しく作っていかないといけない。会社を継いで数年が経ち、ようやく会社という形になってきたので、次のステップに向けて動けるようになってきました。

西岡さんが現在取り組んでいるのは、オブセ牛乳を原料としたヨーグルトの製造販売です。すでに委託製造は開始していますが、今年度中には自社で製造・販売することを目指し準備を進めています。オブセ牛乳は、長野市内の食品加工会社「マルイチ産商」とコラボした、焼きドーナツやキャラメルなどのお菓子を展開していますが、自社企画・自社製造の商品を販売するのはヨーグルトが初めて。西岡さんは、ヨーグルトを牛乳に並ぶ主力商品に育てていきたいと意気込みます。

オブセ牛乳だけではなく、小布施のおいしいものや良いものを紹介し、わくわくするECサイトに

新商品の開発に並行して、西岡さんが力を入れているのが、ECサイトの開発です。2018年に開設したオブセ十乳のECサイトは、初年度は月々数万円ほどの売り上げでしたが、商品数を増やし、サイトのテコ入れを行い、現在はようやく売上約10倍まで成長しました。商品の企画は、西岡さんご夫妻が二人で行なっています。人気商品である、ロゴマークをあしらったマグカップは、西岡さんが退職した仕事先の関係者にお礼の品として作ったことが開発のきっかけでした。

西岡さん 長く勤めた仕事を辞めて小布施にきたので、何かお礼をしないといけないなと。当時からマルイチ産商さんのオブセ牛乳シリーズのお菓子はあったんですが、お菓子は食べたらなくなってしまいますから、それは寂しいなぁと思って。なにか手元に残るものがいいなと思いついたのがマグカップでした。マグカップとオブセ牛乳、オブセ牛乳を使用したお菓子をセットにして、前職の関係者の人たちに送ったんです。初めはただのお礼の品のつもりでしたが、これは結構いいなと。

現在は、グラス、トートバック、エプロン、ピンバッジなど、レトロでかわいいロゴを生かしたオリジナルグッズを次々と打ち出しています。

西岡さん うちの牛乳は、おいしさにこだわっている分、消費期限が6日間と短いんです。牛乳の販売経路を広げていくというのがどうしても難しい。もちろん、牛乳屋としては牛乳の消費が増えるのが一番いいなと思うのですが、オリジナルグッズの販売を伸ばすことで、遠くに住んでいる人にもオブセ牛乳を知ってもらうきっかけになれば。

さらに、現在西岡さんがECサイトで推しているのが、小布施近隣の美味しい果物を「オブセ牛乳のおすすめ商品」として販売することです。今夏は、小布施町産の桃とオブセ牛乳ヨーグルトのセット販売を展開しました。

西岡さん 地域のいいものやおいしいものを紹介して、長野や小布施の良さを感じていただきたいです。それに、ECサイトって、普通であればそんなに何度も見にくるものではないので、季節限定のものがあれば『そろそろ何か出ているかな?』と楽しみにしてもらえるんじゃないかと。一回買って終わり、ではなく、『何かないかな』とお客さんの方から楽しみにサイトを見にきてもらえるように、常に新しい取り組みを続けていきたいですね。

革新的なことをするよりも、今あるものを生かしてより良い方向へ進んでいけるように

今回の小布施バーチャル町民会議で募集するのは、ECサイト運営の戦略を立てるメンバーです。いずれは牛乳に並ぶ事業の柱となるよう、中長期的に売り上げを伸ばす道すじを立てていける仲間を探しています。どんな人に参加して欲しいか伺うと、一番はECサイトの知識があり、商品の企画やページの見せ方を一緒に考えられる人だそう。現状を踏まえつつ、参加者と一緒に実現可能かつ持続可能な改善策を実行していけたらうれしいと西岡さんは言います。

西岡さん それから、SNSに明るい人が加わってくれたら頼もしいですね。今は、メルマガの配信とinstagramで情報発信を行なっています。どちらも自分たちでコツコツとフォロワーを増やしてきました。自分たちで続けられる範囲で、オブセ牛乳のファンを増やしていけるよう、うまくSNSを活用していきたいです。

これまで、「牛乳の製造について知りたい」というインターン生を工場で受け入れたことはありますが、ECサイトやSNSなどの事業を誰かと一緒に進めることは初めてだという西岡さん。いろいろな人に参加してもらうことで、自分たちだけでは出てこなかったアイディアが浮かぶことを楽しみにしています。

西岡さん 初めから革新的なことをして大きな結果を狙うのではなく、まずはちょっとでも事業が上向きになるように地道な軌道修正をしていきたいですね。これまでは、私と家内の二人でずっと思案していたので、外から仲間が加わることでどんなひらめきが浮かぶのか楽しみにしています。なにより、バーチャル町民会議の取り組みを通してオブセ牛乳のファンになってもらえたらうれしいですね。

時代によって世の中が大きく変わり続ける中で、お年寄りから小さな子供まで、誰もが「健やか」に暮らしていけることを願い、変わらない味にこだわり続けてきたオブセ牛乳。町の人に長年愛されてきた味を守るための新たな一歩を、西岡さんと一緒に探ってみませんか?

小布施バーチャル町民会議のプログラムの詳細や応募はHPをご覧ください。

オブセ牛乳のウェブサイト、ECサイトはこちら。

聞き手・執筆:風音 (https://lit.link/funem
写真:小林直博(https://instagram.com/ktbt0269?igshid=MzNlNGNkZWQ4Mg==


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