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「おいしくなければ続かない」240年受け継がれてきた手作りの味噌の味を、次世代へ伝えるためにできること

 あなたが最後に味噌汁を飲んだのはいつですか?そして、その味噌がどうやって作られているかを気にしたことはありますか?栄養価の高い保存食・健康食として海外で注目を浴びる一方で、国内の消費量が減少しつつある味噌。小布施町で唯一、味噌を専門に醸造する穀平味噌醸造場は、天明4(1784)年から、国産原料にこだわった天然醸造の味噌を作り続けてきました。

 「スーパーでなんでも手に入るような今だからこそ、日本の食文化に深く根ざしてきた味噌の魅力を知ってもらいたい」創業240周年の節目を来年迎えるにあたり、代表の小山洋史さんは、伝統の味噌を新しい世代へつないでいく方法を考えています。

 どうすれば、家で味噌を使うことが少ない人たちや、まだ味噌が身近ではない海外の人たちに、味噌の魅力を伝え、生活の中に取り入れてもらえるでしょうか。それぞれのライフスタイルに合わせた、味噌の新しい提案の仕方を探ります。


240年続く味噌醸造場の歴史。工場新設後も、「手作り」へのこだわりは崩さない

穀平味噌醸造場の創業は、天明4年(1784年)まで遡ります。当時の小布施の豪商、穀屋平左衛門が味噌づくりを始めて以来、穀平味噌醸造場は、小布施の地で味噌を作り続けてきました。

小山さん 穀屋平左衛門さんの「穀」は穀物の「穀」。一番初めは、お米や雑穀を扱う米問屋さんだったんです。そこから、穀物の加工品である味噌やお米、それから醤油などを作って、それなりの財を成してきました。その中で味噌作りが残ったわけです。

現在の穀平味噌醸造場工場は、創業時から使用されていた木造の醸造所が台風で大破したことにより、約三十年前に新しく建てられたものです。一部機械化をしつつも、代々受け継がれてきた木樽を使ったり、人の手を入れる工程は残したりと、手作りにこだわった味噌造りを続けています

小山さん かつては木造の蔵の二階で全ての作業を行なっていました。機械が入れられないものだから、人海戦術を使って全て手作業で麹を作って、豆を蒸して、潰して、発酵させてね。台風で蔵が壊れてからは、そのまま廃業するかなんて話も出たんだけど、思い切って新しくしましょうということで今の工場が出来ました。例えば、以前は夜中の2時に起きて麹を仕込んでいたんだけど、それでは作り手が体を壊す。手作りの良さを生かしつつ、作り手の健康を守るために、麹室の温度を測るセンサーと、自動で送風する機械を入れたんです。

ゆっくりじっくり、時間と手間暇をかけて菌と向き合い味噌を作っていく

穀平味噌醸造場が作る信州味噌は、米味噌が主となっています。米を一晩浸水し、蒸したものを冷やしてから、麹室で麹菌をつけて米麹を作ります。それから、大豆や塩と合わせて味噌を仕込んでいきます。仕込み始めてから味噌が完成するまでかかる時間は約半年から一年間。じっくり時間をかけて、味噌ができていくのです。

小山さん とにかく加温すれば、それだけ発酵は早く進む。大量生産の大手の企業になると二ヶ月くらいで出来ちゃうんですよ。ただ、味噌は菌の働きでできるわけだから、ゆっくりじっくりと寝かしてやって、長い時間をかけて熟成させた方が味に深みがでておいしくなる。今は通年味噌の仕込みを行なっているけれど、かつての味噌作りの時期は、桃の花が咲く頃、三月から五月の間だね。わずか数ヶ月で一年分の味噌を仕込むわけだから、まぁこれが大変!そうして作った味噌を、一年かけて売っていたんです。

フォークリフトで材料を運ぶ、浄水器を通すなど、一部の工程は工業化ができますが、味噌作りの肝は、菌による発酵です。人間の目に見えない菌の世界は奥深いと小山さんは語ります。

小山さん 工場は新築しましたが、自然のままに天然醸造するやり方は残しているんです。センサーで湿度や温度の計測はしますが、それはあくまで参考にするだけ。材料を右から左に移すのは機械にやらせたっていいけれど、基本的には人の目で見て、触ってやっていかないとね。国産のいい原料と、いい水を使って、現代でも手間暇をかけて長期熟成を行っています。やっぱり、毎日口にするものだから、体にいいものを作っていきたいという思いがありますね。

「二度と戻るもんか」と飛び出した小布施。東洋医学について学び、「食」を見つめ直そうと帰ってきた

小山さんは、穀平味噌の長男として小布施で生まれましたが、先代当主の父親と仲違いをし、20代で小布施を飛び出しました。東洋医学に興味があった小山さんは、鍼灸とカイロプラクティックの仕事を十年以上続け、そろそろ独立しようかというタイミングで父親が亡くなったと実家から連絡が来ます。

小山さん 「家には二度と戻るもんか」と思っていたんだけどね。一人でなんとかやっていた母親にも限界がきて、いよいよ家を潰すかという話になってきた。「医食同源」という言葉があるでしょう。これまで自分は医療に携わっていたから、今度は食の方に転換してみようかと考えたんだよね。

小布施に帰ってきた小山さんが、まず初めに行なったのが店舗の改装でした。それまでの店舗は、コンクリートの四角いビルでしたが、小山さんはあえて昔風に、瓦屋根に白壁の蔵を模した大改装を行いました。

小山さん 当時は真四角のビルがモダンだったんだよねぇ。僕が子供の頃は、「穀平さんの店の前は都会の風が吹いている」なんて言われてね。ところが、時代が進むにつれてどんどん陳腐になってきちゃう。自分が戻ってきた頃は、北斎館ができて、観光客も増えてきて、小布施の町並みが整ってきた頃だった。それに乗り遅れるわけにはいかないと、なんとか今の形に改装したんですよ。

店舗の改装の他にも、小山さんは商品開発にも力を入れてきました。現在、穀平味噌醸造場で作っているお味噌の種類は約十種類。もともとは代々三種類の味噌を作り続けてきましたが、小山さんが後を継いでから少しずつ麹歩合を変えたり材料を変えて種類を増やしていきました。ロングセラー商品の一つのハトムギ味噌は、東洋医学の勉強をしていたことから、より健康効果の高い味噌を作ってみようと思って開発したものです。

味噌のおいしさ、健康効果を伝え、広めていくために何ができるのか

今回、小布施バーチャル町民会議で募集するのは「味噌の魅力を伝える」人です。店舗の改装、工場の新設、新商品の開発と、精力的にお店を続けてきた小山さんが、現在感じている課題と、これから取り組みたいことは何なのでしょうか。

小山さん 実は、うちはこれまでほとんど営業をしてこなかったんです。長年の地元のお客さんもいますし、小布施に観光に来られたお客さんがふらっと立ち寄ってうちの味噌を買ってくれて、「美味しかったから」とリピーターになってくれたり、県外の百貨店で行われる物産展に出店したときに買ってくれたお客さんがまた注文をくれたりね。

おいしく体に良い味噌作りにこだわり続け、たしかなファンとリピーターがついてきたがゆえに、これまで「届ける」という面に力を入れてこなかったという穀平味噌醸造場。小山さんは、味噌の消費量が全国的に減少しつつある今だからこそ、改めて味噌の魅力を発信したいと考えています。

小山さん 発酵食品の健康的な側面が見直されている中で、「味噌は塩分が高いから健康に良くない」というネガティブな印象が強い。うちのお客さんにも、高血圧を気にして味噌汁を飲むのを控えているという方が結構いらっしゃるんですよ。でも、栄養系の大学の研究によると、塩水と、塩水と同じ塩分濃度の味噌汁をラットに飲ませて経過観察をしたら、味噌汁の方を飲んだラットは塩水を飲んだラットより高血圧にならなかったそうなんです。そもそも、「味噌汁を控える」以前に、味噌汁を飲まない層がいる。一日三回とは言わずとも、まずは一日一食は味噌を摂る習慣を作って欲しいんです。

国内の味噌の消費量が減少している一方で、海外では健康食品・保存食として味噌が注目されています。ここ数年で、小山さんの元には、「味噌の作り方を教えて欲しい」とオーストラリアやケニア、フランスから問い合わせが集まってきているそうです。

小山さん 味噌は塩分が高いから、常温でも保存食として貯蔵できる。最近は、アフリカから留学にきている学生の子が、母国の食料問題の解決のために味噌に興味を持ってうちに勉強に来たんだよ。これからさらに海外で味噌の注目は高まるだろうから、海外の人にもうまく届けていく工夫がしたいね。

おいしく、健やかに。手作りの味はそのままに、伝え方や売り方を工夫していきたい

若い人や海外の人にもっと味噌を広めていくにはどうしたらいいか考えた小山さんは、新しくチューブタイプのパッケージに詰めた味噌の販売を始めました。従来の売り方にしばられず、時代に沿った柔軟な考え方で課題解決に取り組んでいます。

小山さん これまでは、500gずつ販売するのが基本でしたが、それでは一人暮らしの若い人にとっては多いし、冷蔵庫の場所をとってしまう。チューブ入りならお土産にもいいし、気軽に使えるでしょう。こんな風に、うちの味噌の良さはそのままに、売り方や伝え方を工夫できたらと考えているんです。

とはいえ、小山さんは、「スーパーに売っている安い味噌でいいやっていう人はそれでいい」と語ります。誰でもいいからとにかく味噌を売りたいのではなく、健康に関心がある人、家族に安心安全なものを食べさせたい人など、自分なりに食や健康にこだわりを持った層に届けたいと考えているのです。

小山さん でもね、健康効果がなんだって言ったって、結局はおいしくなければ長続きしないわけですよ。だから、うちの味噌をみんなにおいしく食べてもらうことが一番かな。そのために何ができるか一緒に考えていけたら。うちの味噌づくりや考え方を、「いいな」「面白そうだな」と感じてくれた人が参加してくれたらうれしいですね。

小山さんのおすすめの味噌の食べ方は、冷やしたキュウリにつけてかじること。「これがうまいんだ」と笑顔で教えてくれました。食べる人の健康と、なにより「おいしさ」を突き詰めて手作りの味を守り続けてきた穀平味噌醸造場。小山さんと一緒に、味噌のおいしさと魅力を伝える方法を考えてみませんか?

小布施バーチャル町民会議のプログラムの詳細や応募はHPをご覧ください。

穀平味噌醸造場のウェブサイトはこちら。

聞き手・執筆:風音 (https://lit.link/funem
写真:小林直博(https://instagram.com/ktbt0269?igshid=MzNlNGNkZWQ4Mg==

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