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【あいうえおぶせ】お号 オープンガーデン

小布施町をあいうえお順に紹介するフリーペーパー、小布施辞典「あいうえおぶせ」。これまでに刊行されたバックナンバーから、おぶせじん編集室が選りすぐった記事をお届けします。

今回は「お」号から「オープンガーデン」をご紹介します。

おーぷんがーでん【オープンガーデン】

「お庭ごめん」。 こう言って小布施の人たちはお互い便利に通り抜けができるよう、 自宅の庭を開放して隣近所を出入りしていました。 「ちょっとお庭、通してね」「どうぞどうぞ。お茶でも飲んで行く?」 そんなやりとりから生まれた文化が「おぶせオープンガーデン」です。

「オープンガーデン」とは、個人の庭などを一般に公開する活動のこと。 イギリス発祥の文化で、小布施では平成12年に38軒でスタートしました。 これは昭和55年からまちが取り組んできた「花のまちづくり」と「お庭ごめん」の文化から発展した 取り組みで、なんと官民が一体となって取り組んだオープンガーデンとしては全国初なのだそう。 現在は130軒のお宅で丹精込めてつくったお庭を開放し、花を介した人と人との交流を深めています。

庭が生む思いやりの文化と人の繋がり

小布施町飯田地区、ハイウェイオアシスから小布施駅へと続く県道343号沿いに、きれいに手入れをされた三角の花壇があります。この花壇を有志で管理しつつ、隣家同士でオープンガーデンに参加するのが、35年の付き合いとなる神林孝子さんと込山恭子さん。

神林孝子さん(右)と込山恭子さん(左)

たくさんの植物が植えらえた神林さんの庭には、かつて千曲川通船で使用された古い木船をアレンジした樽があったり、大きな石を工夫したテーブルがあったりと個性的。栗や果樹農家の込山さんの庭は、ウッドチップを敷いた小道の先に昔ながらの広大な日本庭園が広がり、その一角にはバラのコーナーがあったり山野草が植えられていたりと、さまざまな植物の魅力を楽しめます。


 こうした庭の手入れに加え、三角花壇の丁寧な植栽からもわかる通り、ふたりは大の花好き。でも、オープンガーデンに参加したのは初年度からではなく、平成16年、現市村良三町長が就任してからだとか。きっかけは、町長が直々に各お宅を訪問して誘われたからだと言います。

「オープンガーデンの取り組み自体は知っていましたけど、まさか自分がやるとは思っていなかったんです。でも私は昔から庭が好きで、石をあっちこっちに持って行っては向かいの家のおじいさんに『また植木屋が始まったぞ』と冷やかされるくらい(笑)。だから、誘われてからはすぐに参加しました」こう話す神林さんに対し、込山さんは「三角の花壇に植える花を無料で提供してもらえるなら」と答えたのだそう。

というのも、当時、この花壇には込山さんが見つけてきた珍しい花々を植えていたのですが、頻繁に盗まれていて困っていたのです(「花泥棒は罪にならない」という言葉は犯罪を許すものではないのですよ!)。こうして、見事(?)まちから苗の提供も約束された込山さんもオープンガーデンに参加するようになりました。
 
現在は、お互いに買ってきた花を報告したり植える場所を相談しながら、それぞれの庭づくりを楽しんでいます。「遠くの親戚より近くのなんとか。ありがたい存在で助かっていますよ」こう話すふたりによると、庭を訪れる人は周囲も歩いて回るので、近所の人も美化への意識が芽生えてまち全体がきれいになる相乗効果も生まれているのだそう。それに、まちではオープンガーデンのオーナー同士で年に一回研修旅行をし、ほかの地域のオープンガーデンを巡って交流会をしたり花の展覧会を訪れたりしていることもふたりの楽しみになっています。

 「“花”という共通話題があるから、オープンガーデンの仲間同士の繋がりもうまくいくよね(込山さん)」ちょうどこの日も仲間から「モンタナの花が咲くから、そこでみんなでお昼を食べよう」と電話があったそうで、花を通じた町民同士の交流もふたりは楽しんでいます。「花を見て話したり歩いたりすることは癒しにもなります。毎日いいことばかりではなく色々なことがあって落ち込んでも、この庭で花を見ていると嫌なことも癒されます。だから花はいいんですよ(神林さん)」


 古来より庭は、限られた空間に自由な発想で自然を再現する人間の想像力が作り上げた小さな世界でした。「お庭ごめん」という言葉は、そんな世界観の中にお邪魔するための、小布施町が作ったおもいやりの文化のひとつなのではないでしょうか。

オープンガーデンを訪れたなら「お庭ごめん」の気持ちで、それぞれのオーナーが作った庭に思いを馳せてみてはいかがでしょう。もちろん、飯田地区を訪れたなら三角花壇の訪問もお忘れなく。

つくる楽しさと憩う喜び
苔庭で感じる癒しの時間

朝日に照らされて青々と輝く広い苔庭。その周囲には大きなサワラやツバキの木が立ち並び、脇には色鮮やかな花々が咲き誇る……。そんな日本庭園をオープンガーデンで開放しているのは、北岡地区の小林春夫さん。若い頃から庭づくりが好きで、植木や盆栽を趣味としていた小林さんは、友人や知人から木をもらうこともしょっちゅうだったそう。

小林春夫さん


 「この家を建てたのは46年も前だけど、その頃はいろいろな人が木をくれたんで、ここまで自分で運んだんだよ。本当はこんなにたくさんの木が植えてあるのはよくないらしいんだけど、全部に思い入れがあるから切れないね。植木屋さんなら借景まで考えるけど、この庭は見よう見まねで全部自己流。スイセンやチューリップまで生えてるから、ちゃらんぽらんなんだよね」

 そう話す小林さんですが、いやいや、隅々まで丁寧に手入れが行き届いた広い庭は見事なもの。それに、その口調からは庭づくりの楽しさが伝わってきます。

 そんな小林さんがもともとあった庭を現在の苔庭へと変えたのは約10年前。退職してから始めたマレットゴルフの先輩の見事な日本庭園を見たことがきっかけだったのだとか。

 「先輩のお宅に初めて伺ったら、しっくりときれいな苔庭があって、ラインが素晴らしくて植木もいい。鳥肌が立ったよ。そこから先輩と仲よくなって、苔庭のアドバイスが始まった。出会いってそういうものなんだね」

 でも、ここからが大変だったそう。苔にはスギナやドクダミといった地下茎で繁殖する植物が厳禁であることから、まずは茎を根絶やしするために専用の除草剤で根気よく整地。それだけでも1~2年がかかりました。

そして、土で丘のラインをつくり、そのうえに先輩から教えてもらった日当たりのよい場所でも育つ苔を植栽。この苔、なんと道端や歩道の脇などに生えているものから採ってきているのだとか。カラカラに乾燥している苔も水をあげると青々と輝き、特に朝は青さを増すのだと言います。


 「毎日、朝夕に水をあげて、青々とする光合成に癒されているんだよ」
 そして、京都の名庭園にも使われている「さび砂利」という砂利を敷き、大きな石や石灯籠も配置。こうした巨石の中には、地元小布施で取れたものもあるそうです。庭づくりは人と自然との共生。小林さんは見事に地域の風土を庭の中に取り込んでいます。


 こうして造った苔庭に対する家族の評判は上々で、周りの人からもきれいだと声をかけられるようになりました。日々の草取りが欠かせないなど手間はかかりますが、こうした周囲の反応は小林さんの何よりのやりがいになっています。だからこそ、この庭に立っていると、随所から小林さんの植物への愛情が感じられます。

 「植物はものを言わないだけに愛着があって、最後まで面倒を見てあげたい愛おしさがある。だからいいんだよ」
 そんな小林さんがオープンガーデンに参加したのは、今から約8年前。そのきっかけもまた、前ページで紹介した神林さんや込山さんのように市村町長に誘われたからだと言います。

 「前々から『庭がきれいだから参加したらどうか』と周りに言われていたけど、もっと立派な庭があるから自分では参加できないと思っていたの。それに、完成してから参加しようと思ってたけど、庭づくりには完成がないんだよ。それが楽しいんだよね。だから、せっかく町長も来てくれたからまちにもっと貢献をしないと、と思って協力するようになったんだよ。最初は恥ずかしい思いはあったけど、やっぱりいろいろな皆さんに見てもらえるのはうれしいね」

 また、オープンガーデンに参加することで意識して草取りをするようになり、庭がよりきれいになっているのもこの取り組みのよいところだと話します。そんな小林さんにとって、庭のパラソルの下でコーヒーを飲んだり晩酌をするのが至福の時間なのだそう。

 「パラソルの下で皆さんと話すのもいい時間だね。お客さんは大歓迎。なかなかここまで足を運ぶ人は少ないけど、無料だから気楽に来てくれたらうれしいね。お茶でも出しますから、興味がある人はぜひ来てほしいですね」

小布施辞典「あいうえおぶせ」
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あいうえおぶせ (aiueobuse.net)

※掲載内容は刊行当時のものです。情報が最新ではない場合がありますのでご了承ください。
※noteでの掲載のため、一部内容を編集しています。

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