【長野県小布施町】町内外から知見を集結して進める環境施策の今とこれから
小布施町は、2022年に町の環境防災施策に関する中長期計画「小布施町環境グランドデザイン」を策定し、実証的な取組を開始しています。
この記事では、グランドデザインを策定してから現在に至る小布施の環境政策にかかる取組の今を、関係者へのインタビューをもとに、町の地域おこし協力隊として広報担当をしている橋本が伝えていきます。
1. これまでの背景
小布施のまちづくりや環境政策へ注力するに至った経緯や背景については、以前ソトコトにて詳しく紹介いただいていますので、こちらも合わせてご覧ください。
2. 指針の策定から実践へ
長野県北部にある小布施町は、半径約2kmに納まるほどの同県内で面積が一番小さな町。
そんな人口約1万人の町に年間100万人を超える人たちが訪れます。
訪れる人のなかに、観光はもちろんですが、
地域(まちづくり)に関わりたい
やりたいこと、新しいことに挑戦したい
環境問題など社会課題の解決に取り組みたい
このような意欲を持っている企業や若者も多く出入りしています。
様々な人が交流し、関係人口として関わっていただいてきた小布施町ですが、気候変動への対応を中心とした環境分野では、2022年までは包括的な行政計画も存在せず、具体的な取組も十分ではありませんでした。
「一言で言うと何も無い。資金も人員も限られる中、手探りで進めていくのは前職のベンチャー企業を思い出しました(笑)まずは環境政策を進めていくためにも指針・具体策・戦略が必要だと思い、包括的な計画策定に着手しました」
と話してくれたのは、2018年の「小布施若者会議」に参加した事をきっかけに小布施へ移住して、まちづくりや環境政策に関わっている林さん。
2020年からは町の総合政策推進官として、環境政策だけでなく、まちづくりに係る様々な施策実現のサポート役を務めてきました。
当時は総合計画に「環境・防災・インフラ」が基本方針として位置付けられていたものの、その実現に向けた方向性や具体的な方法などは、ほぼゼロの状況でした。
林さんや町職員をはじめとした町内外の様々な協力者のもと、様々な調査や議論が行われ、2022年に策定されたのが「小布施町環境グランドデザイン」です。
このグランドデザインでは、町の環境分野と防災分野に係る4つの施策領域を一体的に記載し、取組の方向性が示されています。
このような計画の枠組みにしようと考えた背景には、2019年に発生した台風19号による被災経験がありました。
町全体が、気候変動が要因となった自然災害の脅威を間近に感じたからこそ、環境問題の根本的な解決と、既に発生している影響への対応を、一体的に進めることが求められるタイミングでもありました。
しかし、このような広範な施策領域をカバーする計画作りには、その分多くの知見やノウハウも必要となってきます。
そこで、当時グランドデザイン策定を担っていた大宮さん(町総務課長)や林さんたちが中心となって、環境に関連する分野で活躍するプレイヤーを巻き込み、新しい時代を見据えた計画のあり方を検討していきました。
このように2020年ごろから2022年5月のグランドデザイン策定にかけて、町環境施策の基礎となる構想を作り上げ、現在もそれに沿って取組を進めています。
また、このようなグランドデザインが目指す姿を、町民や事業者、関係人口や観光客として町を訪れる人など、誰が見ても伝わりやすくしたいという想いから、WEBサイト「ZERO by ONE」も開設されています。
ゼロ・カーボンやゼロ・ウェイストなど、不要なものを「ゼロ(ZERO)」にするため、一人ひとり(ONE)が取り組んでいくための情報基盤になることを目指して、このサイトタイルと名付けました。
策定直後は、林さんや当時の地域おこし協力隊員が中心となり、町内向けの講演会やワークショップも開催しました。
「そのとき小布施中学校の生徒会の学生たちも参加してくれたのですが、そのことがきっかけになって関心が強くなり、ゼロ・ウェイスト・ジャパンの代表・坂野さんを自ら招聘して文化祭で講演会を企画してくれました。
また講演会に参加した他の中学生も坂野さんの活躍ぶりに憧れて関心を持つなど、さらに活発な動きが生まれたのは嬉しかったですね」とのこと。
「具体的な取組の創出も同時に進めていきました。過去に行った調査や検証をもとに、様々な施策を実証的に開始できたことで、小布施町の取組に関心を持っていただく方が増え、町内外の様々な主体との交流が生まれています」
こうした経験から、今後も環境施策に参画することをきっかけとして、町との関わりしろを増やしたり、移住を希望する人が増える、という相乗効果も期待しています。
3. ゼロ・カーボン「おぶせ炭」の取組
2023年4月から地域おこし協力隊となった西野さん。彼もまた町の環境に関わるイベント等への参加から興味を持ち、移住した一人です。
「未経験ながら失敗も含めて経験を積ませてくれる土壌と、相談にのってくれたり、力を貸してくれる人たちがいるので安心して飛び込めました」とのこと。
そんな西野さんのおもなミッションは「木質資源を地域内で循環させること」です。
例えば、栗の名産地であり、果樹の栽培が盛んな小布施町では、大量の栗イガや剪定枝がゴミとして排出されます。それらを炭として活用する「バイオ炭」は具体的な取組の一つです。
「炭をつくると言っても簡単にできるものではありません。剪定枝を運ぶためにフォークリフトの資格を取ったり、炭化炉の扱いや炭づくりの技術を学ぶため先駆者がいる大阪府高槻市まで研修に行ったり…作業に入る前の準備段階からお金と時間がかかりました」
いざ炭づくりに着手しても、枝の取り扱いに苦労したり、火の入りが均一でなく炭化できていなかったりと一筋縄ではいきません。
だからこそ町では環境に係る取組を、まずは実証的に開始し、トライ&エラーを繰り返すことで、町に事業が残る持続的な形を目指しています。
このようにやっとの思いでできた炭を「おぶせ炭」として販売し、炭ができるまでの過程をイベントにて発表するなど、西野さんが着任から1年あまりで様々な取組につなげ、試行錯誤を重ねています。
剪定枝の運搬や様々な関係者との日程調整といった気苦労も多いポジションではありますが、
「炭をつくっている過程でも、イベントでの対面販売や経験談を話す機会を通じても、どんどん人と繋がっていくのは活動していて楽しくもあり、やりがいも感じます」と、にこやかに話してくれました。
4. 小布施が「環境防災先進都市」となるために
「行政の動きは時間がかかる」と言われがちですが、これまで見てきたように、小布施町では小さな実証からスタートしながら、できるだけスピード感をもって計画の策定から実行・検証を行い、町の目指す姿を形として見せられるように事業を進めています。
だからこそ、今後も町に残るものになるために、さらにもう一段階前に進める必要があると言います。
「これまでの取組のやり方は属人的な要素が強く、誰にでも引き継げるというような状態ではありません。
これからは行政だけではなく、民間企業と一緒にやっていかないと進まないし、持続可能な形を作っていく必要があると考えています」
これまで様々な施策を実践してきたからこそ見えてきた課題を踏まえ、林さんはそのように語ります。
では、これからの小布施町はどのような姿になっていくことを思い描いているのでしょうか?
大宮さんに伺いました。
「今実証段階で取り組んでいることが、”当たり前”になっていないと”先進都市”とは言えないと思います。いま実証実験している取組を事業化し、町の機能として仕組みを確立させること。
かつ、ちゃんと経済的にもメリットがあり、持続可能な状態を目指して取組をさらに推進していきます」
しかし、林さんが語った課題を踏まえ、この目標を成し遂げるためには、施策推進の担い手がまだまだ足りていない状況です。
そこで、町では任期付きの職員として一緒にチャレンジしてくれる人を募集しています!
詳細は町ホームページに公開されているので、関心がある方はぜひ応募してみてはいかがでしょうか。
執筆:橋本 緑(小布施町 地域おこし協力隊・広報担当)